平成19年11月号

み教えを生きる悦び (44)

祈りは必ず叶えられる (上)

鎌 田 久 子


 「親戚の結婚式に招かれ、上京するので、翌日ぜひお会いしたい…」 と、電話をいただいたのは、二年前だった。 澄んだお声は、聞き覚えがあるような … 。でも思い出せないまま、約束の時間に靖国神社の遊就館に赴いた。
  彼女は、祈りに裏打ちされたやさしい笑顔をほころばせながら、すぐ私のそばに近寄ってこられた。

「まあ、女子部長の頃と少しもお変わりなくて … 。 ” 人類の半数は女性です。女性の ”愛” の力を結集して、家庭・国家・世界を光明化しましょう!” と、いつもきびきび活動してらしたわねえ …」
「ああぁ、頭がよくて、頼りがいがあって、女子部活動に挺身して下さっていた岸さん?」
「そう、その岸上よ…」
  二人を隔てていた四十年の歳月が一瞬に縮まり、四時間三十分、彼女は今日までの越し方を堰を切ったように話し出された。

  ご両親は、彼女が小学校五年生のとき、生長の家に入信。熱心に行に励む信仰家族で、彼女は、『生命の實相』や神誌・聖典を拝読することが大好きな少女時代を過ごした。
  昭和二十九年に尊師谷口雅春先生が松江にご巡錫。 [あぁ、神様が、人間のお姿をして真理を説いておられる] と、大感激。毎日雅春先生の警咳に浴していたいとの思いがつのり、単身上京。学費を送ってもらい、簿記の一級資格を取得し、人よりも三倍の高給を頂き、その貯めたお金で自活しながら美大の服飾科で学ぶ。この頃に青年会活動に励んだ。
  迎春のため帰郷すると、東京で洗練されたエリートお嬢様と評判が立ち、お見合いの申込が殺到し、写真選択を経て、お見合いをしたところ、上品で、清潔感にみちた現在のご主人に心ときめき、御本人も彼女に一目ばれし、結婚した。

  楽しい蜜月の三ヵ月が過ぎた頃だった。姑が威儀を正し、両手をついて告げた言葉。それは、「息子は、医者に精密検査をしてもらったところ、子種がないと診断された。あなたは、子供のいない淋しさを埋めるためにもお勤めをつづけて、休みの日は、私か茶道を教えるので、あとを継いでお茶の先生になってほしい…」 と。目の前が真暗になった。しかも、姑に、生長の家は新興宗教だからしてはいけないと止められていた。しかし、この時ばかりは「親しい友人の結婚式に出席する」 と嘘をつき、毎月第一と第三金曜日に雅春先生輝子先生に直接ご指導いただく白鳩例会に臨んだ。

  「先生、私の夫は精子がないと言われました。先生、いったいどうしたらよいのでしょう」 観世音菩薩様のような輝子先生を拝して涙がどっとあふれた。
  輝子先生は、慈愛に満ちた表情でじっと泣きじゃくる彼女をみつめてやがておごそかな口調で、「実相の世界には、すべてが備わっているのですよ。ご先祖様に感謝し、お祈りによって、現象界にあらわし出せばよいのです」 ズバリ天来のお声が大道場に響き渡り、彼女の全心身を貫いた。
  そうだ!実相世界に子種は用意されている。
  彼女は、帰郷の途次、小さな額縁を求めて帰宅した。曽祖父母の名前を黒字で書き、存命の祖父母と、舅・姑の名前は赤字で書き、夫の名前も書いて額縁に入れ、そっと机上に飾り、それから毎日感謝行に徹した。

  「ご先祖様有難うございます。ご先祖様有難うございます。」 特に夫の名前を誦え、”実相円満完全” 誦行をした。早朝は家族が起きない前に。昼は会社の休憩時間に。夜は家族が寝てから … 。 一日も休まず、聖経 『甘露の法雨』 もあげ、一年が過ぎた。三年たち、五年が過ぎても彼女の堅信は揺るがなかった。七年目に入ってもあきらめずに続けていたとき、腰から下腹部に激痛が走り出血した。布にくるんだ額縁と 『甘露の法雨』 を握り、即、産婦人科に直行した。そこで、天国と地獄を体験する。

  お医者様が 「妊娠による出血です。しかし、出血がこのまま続くと切迫流産の可能性があります」
  悦びと不安の交錯するなかで、一日も休まず聖経をあげ、実相円満完全誦行を実践し続けた七年間に及ぶ彼女の真心は、天に通じ、完成の総仕上げを迎えようとしていた。

  個室に入院した夜からは、もう誰にも気兼ねすることなく感謝行と聖経を誦げ続けた。その二日目の朝方、ドドウ、ドドウと大波が押し寄せ、彼女はその波の上に乗せられ、大海原に運ばれた。海水は温泉のようにあたたかく、腰から下を包み込み、痛みは消え、ただぽっかりと無心に浮かんでいた。天上からは光が燦々と降りそそがれ、 「ああ、ここは天国だわ」 と放心状態になること十分くらいであったろうか、やがて現実の朝に引き戻されたとき、出血はピタリとおさまっていた。

  「今振り返ると、あれは慈母観音様が両手で私を支えて下さっていたのだと思います」 と彼女は語って下さった。

(つづく)





鎌田久子氏
どんな教えか
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