平成21年 7月号

み教えを生きる悦び (63)

十四烈士の欅に詣でて

鎌 田 久 子


 ある日、贈呈の判が押された分厚い本が届いた。包装を解くと、 『昭和天皇のおほみうた』 と 『不二』 という歌道誌があらわれた。あまりの有難さに、すぐ手を洗い、お香を焚き、仏前に供えた。
  表紙を開くと 『贈呈の辞』 が添えられていた。

  「謹啓 去る十一月二十一日 『大義研究会』 に参加させて頂いた者であります。私ども大東塾・不二歌道会は 『天皇陛下のお役に立つ真日本人にならう』 を信条とした団体であります。 『大義』 の著者杉本五郎中佐も全く同じ様であろうと存じます。今後とも皆様と共に勉強して行きたく存じます。
  就きましては拙著『昭和天皇のおほみうた』を贈呈申し上げます。御多忙の方は六一頁 『終戦時四首の御製』 、二三五頁 『御絶詠・赤げらの御製』 、五一三頁の最後の 『まとめ』 等々を御覧下されば有難いと存じます。
  本年棹尾の御活躍を祈り上げます。 謹白
   平成十一年十二月吉日
                      大東塾・不二歌道会
                          代表 鈴木正男 」

  実に、五七四頁に及ぶ大作である。しかもすべてのおほみうたを 「御祖先・御親族」 「皇居の四季」 「国見(県別)」 などに類別し、 「全国御製碑一覧表」 と 「索引」 も付されている。私は、これほど昭和天皇への尊崇の念と、至純な仰慕の情に貫かれた御製謹解の書は、いまだ世に出版されていないという思いの中、魂ふるえつつ、拝誦した。
  ちょうど、前年の九月、全国の学生を主体にした 「たをやめ」 のお誘いを受け、私は初めて皇居勤労奉仕に参加させていただいた。その折のあふれんばかりの感懐を、短歌でなければ表現できなくて、自己流に五首ほど詠んでいた。それだけに、前記二冊を頂戴したときは、天来の賜物と恐惶感激した。
  歌道誌の冒頭には 「不二」 の信条が載っていた。

「深く國學の道統を信奉し、厚く歌道の風雅を尊重す。敬神以て結び尊皇以て展かん。大東不二、求道一貫。歌心いよいよ澄み、剣魂ますます堅し。低劣を排し醜悪を討ち、以て萬有維新の天業に参ぜん。」

 右の信条を拝し、谷口雅春先生が影山正治先生を敬愛され、大東塾を賞揚されておられたことを、身に沁みて、肝に銘じることができた。
  何という恩寵であろうか。歌道を一から学びたいと切実に思っていた矢先であったから、格調天をつく信条の 「不二」 にさっそく入門させていただいた。
  平成十二年の 「道の友」 二月号が大東塾から届いたときは、またも、言葉を失うほどの衝撃を受けた。
  昭和天皇の御詔勅により、八月十五日、日本は世界に類例のない無血終戦を迎えた。影山正治師は、まだ北支に出征中。父君の庄平翁は、一切の責任を背負ってひそかに一人自決する覚悟を決めていた。しかし、どうしても加わりたいと希望する者多く、十四名の自決者が確定した。自刃現場は、明治神宮側の代々木公園とある。八月二十五日午前二時決行。
  出発前には、この大事を無事遂行できるよう、祈念し、祝詞を奏されている。

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  大神の御前に白さく、御前の大東塾同志十四名、うつそみの命をかぎりて無窮に国体皇道を護持拡充の念願を龍め、最後の大きみ祭りを明治神宮の御側なる代々木練兵場に於いて仕へ奉るを、つばらに聞し召し受け給ひて、大事恙なく取り果たさしめ給ひ、同志のみたま洩るることなく速やけく高天原の神のみ門に引き取り給ひてみたま著く永久の御仕へまつろしめ給へと畏み畏み申す
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  その後、庄平翁はおもむろに筆をとり、

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   清く捧ぐる吾等十四柱の皇魂誓って無窮に皇城を守らむ
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と共同遺書に認められた。

  十四烈士の碑に感謝を込めて聖経を誦げたいと思い、鈴木先生に代々木公園の場所をお尋ねした折り、先生は不思議なお話をして下さった。
「自刃跡地に、欅(けやき)の木を十九本植えたのに、二、三年ごとに枯れてしまい、十四本残った。この十四本は五十六年経った今も元気に根づいている。」
  二月十七日白刃現場に着いたとき、驚いた。十四本の欅には、一枚も葉がついていなかった。

  裸木欅十四本に囲まれし血砂の上の碑に詣でけり

  すさまじき往時をしのび額づけば十四烈士のおもひ迫り来る

  魂魄(こんぱく)のこもれる欅なでまつり拝(おろがみ)ゆけば涙わきくる

  裸木欅後を頼むと啾啾の声なき声の語りかけくる

  家に帰って十二時頃床につき、目を閉じると、二メートルほど上の方に、十四本の裸木欅が現れたかと思うと、互いに枝と枝とが重なり合って、楽しげに躍り始めた。 パッと目をあけると白い天井があるだけ … 。 二、三回繰り返しているうちに寝入っていた。





鎌田久子氏
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