まるで、意志があるかのように、ひらりひらりと、天井すれすれに高く舞い上がった白い懺悔文は、煙がこもらないようにあけておいた戸口からゆっくり出てゆき、廊下に舞いおりていた。その白い灰を、数人の方々がハンカチに掬い取り、焼却炉に戻してくださった。
「悉皆成仏、悉皆成仏。ますます高き御位に進み給え」 。 くりかえし唱えながら、神前の供塩を海水濃度 (胎内の羊水とほぼ同じ濃さ) に溶かした水を 『甘露の法雨』 さながらに、焼却炉にふりそそいでいると、
「あらーっ。講師(せんせい)」 焼却係りの方が、感激した面持ちで蝋燭 (ろうそく) を指さした。 「まあーっ」 直径五センチ幅の蝋燭のしたたりが、嬰児をやさしく抱かれた悲母観世音菩薩のお姿に変貌していたのである。
”神は、天地にみちみちていまして、私たちが己を無にして、心の波長を合わせさえすれば、無限の愛 ・ 智 ・ 力 ・ 生命 ・ 供給 ・ 悦び ・ 調和をふり注ぎ給うておられる” ということを心底より感得させて戴いた。
心のゴミが焼却されると、こんなにも心身が軽やかになるものかと、感謝に満たされながら部屋に戻ると、ドアの前に六名の方々が待ちわびてらした。
白鳩の幹部に 「お疲れでしょうから、個人指導は明日になさっては … 」 といわれたが、 「いいえ、多分みなさま悩みはほとんど消えていて少々くすぶっているゴミを、完全に焼却したくて待っていらしやると思うので、今晩中に総仕上げをさせていただかなければ … 」 と、私は俄然はりきった。それは、あの 「親展」 のお嬢さんが、六名の中に交じっていらしたからである。
「若い方は、睡眠不足でもお肌の張りが保てるので」 と、彼女を一番最後にし、あとの五人は話し合いで順番を決め、一人ずつ相談に応じた。 夫婦 ・ 子供 ・ 孫 ・ 嫁姑の諸問題をじっくりと伺い、み教えによって解決できない問題は何ひとつないことを、お互いに納得し合い、真理を実践することを誓っていただいた。
いよいよ彼女の番である。私は話しやすいように 「若いあなたが参加して下さって本当に嬉しい。今まで青年会活動をしてきたので … 」 と口火を切った。
彼女は、誰にも話せなかった胸の内を堰を切ったように話し始めた。私は妹の幸せを祈る姉の心境で、その内容を受け止めた。 そして浄心行で清らかな神の子として神生した貴女の生命をもう穢さないでほしいと、次の五点を話した。
@ もっと心の視野を広げて生きること
─ 戦後の風潮に汚染されて熱烈な恋愛をしているような錯覚をしているだけ
で、肉体の本能を充たす単なる不倫
─ 祖父母、両親、姉弟が知ったら、どんなに嘆き悲しまれるか計りしれない。
A また職場の同僚に察知されたら、二人とも軽蔑され、上司と部下達との人間
関係はもとより仕事にも支障をきたす筈。
B 同じく上司の妻や子供たちに知られたら、夫や父を尊敬できない塗炭の苦し
みを家族に与え、貴女は怨嵯の的になる。仮に、貴女の父親が不倫をした
ら、と考えれば自ずから分かるでしょう。
C 中絶児の霊を供養することによって運命も好転する。
明日事務室からいただきお渡しする霊牌に、筆で記載してください。 『実相
妙楽宮地蔵0000童了位 (中絶児に名前をつける) 』 は宇治の宝蔵神社
に奉祀されるので、自宅と両方で供養すること。
D 月曜日、結婚準備のためと称し、会社に退職届を出す。
仕事の引継ぎもあるでしょうが、出来るだけ短時日に退職する。 上司には
手紙できっぱりと交際をお断りすること。
いまは人手不足なので、貴女のような優秀な女性は、必ず御自分の才能を
生かせる素晴しい会社に就職できる。 その職場で本当の半身にめぐり合え
るかもしれない。
周囲の方々に明るく接し、特にご両親に悦びと希望を与え、みんなに祝福さ
れる結婚をなさって下さい。
と。
そして仕上げに、いつも感動を与えられている崇高な生き方をされた二十歳前後の護国の英霊のエピソードを語った。 二人して一本のタオルの両はじで涙を拭きながら … 。
真っ赤に泣きはらした目で、しっかりと私の目をみつめ、彼女は清く正しく生きる強い決意を、両手にこめて、握手してくれた。
ふと時計を見ると一時四〇分になっていた。神に感謝の祈りを捧げ、寝ようとしたときだった。 コツコツ、コツコツと、遠慮がちにドアを叩く音がした。
(つづく)
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