平成16年11月号

み教えを生きる悦び (10)

神のみ業顕れんためなり

鎌 田 久 子
 


  アテネのオリンピックでは、序盤から日本のお家芸、柔道 ・ 体操 ・ 水泳が、金メダルを取得。 現地のスタンドは、湧きに湧き、大 ・ 小の日章旗が打ち振られた 。国内も熱狂してそれに呼応。なにか日本も世界も 「日の丸」 の幣帛(へいはく) で、浄められていくような悦びの気概にみちた光景だった。

 そんなとき、華 (仮名) から、日の丸の旗の絵がちりばめられた、残暑見舞いのはがきが届いた。

 「鎌田さんお元気ですか。華も元気です。祖母も元気です。父母が宜しくといっています。こんど遊びにきて下さい。さようなら。」

 去年は ”おばあちゃん” だったのに祖母と、しっかり漢字で書いてきた華。ずいぶん成長したのね … と、胸があつくなった。

 華との出会いは、十年前、ハローワークに提出した一枚の求職カードがきっかけだった。
 カードには、希望する職業=乳児院勤務 ・ ベビーシッター等 ・ (生命と生命の密度の濃い交流が為される仕事) あなたの @取得資格と APR=幼稚園教諭二級免許取得 B無限の可能性を秘めた乳幼児期に言葉の創化力を駆使し、認めて・讃めて・引き出す 「生命の教育」 の実践を使命としたい。
 こうした抽象的な内容のカードを見て、依頼する人は少ないと思いつつも、 「神よ、み心のままに、あなたのみ業を、必要とする人にふり注ぎ給え」 と祈っていた。

  三ヵ月ほどたったとき、ハローワークから 「あなたに子供の世話を頼みたいと申し込まれた方から、面接時間と、先方への案内図の手紙がいくので宜しく」 との電話が入った。
 その翌日、父親からの速達で、面接日時と、緻密な地図と、乞う委細面談。都合つかぬときは、左記携帯に電話されたし。とあった。母親からも区内のハローワークを探しつづけ、七ヵ所目に鎌田様のカードに出会えた。ぜひとも娘の世話をお願いしたい旨の手紙が添えられていた。

 これは神様のお導きと、私は当日いさんでお訪ねした。挨拶がすむと、父親が意外な事実を話された。 「実は、中一の十三歳になる自閉症の娘の世話をお願いしたい。知能は幼稚園の年長組か小学一年生位。とても大人しい手のかからない娘です」 とおっしゃる。母親は 「私の母が月曜日から金曜日までの五日間、近県から泊り込みで、世話してきましたが、八十歳になり、体力も限界。それに年老いた父が毎週五日間は店屋物で、食事を済ませてきましてね、三ヵ月前怒って電話してきて、オレと華と、どっちをとるんだ。まだこんな生活を続けるのなら離婚するぞって … 」

 ともに四十歳の両親は、ずっと共働きで土・日以外の育児と家事は、祖母任せできたとのこと。

 「お名前は? 」と聞くと、母親がノートとエンピツを渡して 「鎌田さんに教えてあげて」 という。少女は大きな字で華と書いた 。
  「アラ、何て読むの?」 少し間をおき
  「はな」 と小さい声が返ってきた。
  「いいお名前ね。それに芸術的な字ね。華ちゃんお絵かき好きでしょう?」
華は”当り”というような笑顔で嬉しそうに部屋の中をコロコロと転がり、壁に行きつくと、やがてすやすや寝人ってしまった。

  私は、華のあどけない寝顔をみながら、ヨハネ伝第九章の一節に自分なりの言葉を重ね合わせていた。
 「神よ、華の自閉症に生れしは、誰の罪によるぞ。 己のか、親のか」 神答え給う。 「華の罪にも親の罪にもあらず。ただ華の上に神のみ業顕れんためなり … 」 と。

 「初めて授かったお子さんが自閉症と解ったときは、ショックだったでしょう。世間の目、親戚間の思わくなど、よくみなさま十三年間堪えてらして … 。 私にもその重荷の一端を担わせて下さい。 」

  そう申し上げると、やや暗い張りつめていた空気がゆるんだ。祖母は、涙をふきながら、 「お頼もします。お頼もします」 と頭を下げられた。おばあちゃまは、どの孫よりも華を不憫に思い、父方の祖父母への蹟罪意識もあって献身的に尽されてきたのだろう。 今、ほっとした思いと、生甲斐を失う淋しさがないまぜになっていらっしやるのでは … 。

 私は華の両親に、来週五日間だけ祖母の助手を勤め、愛情の注ぎ方を学ばせて欲しい。その方が華に動揺を与えずスムーズにバトンタッチが出来るからと提案した。
  その後、一年位のつもりが、二年三ヵ月も共育ちをさせていただいた。一生おつきあいを、というご両親のお言葉に甘えて、私は、華を娘のように思って今日に至っている。

 「華、大好きな日の丸の旗をいっぱい描いてくれて有難う。 九十歳になられたおばあちゃまには金メダルを。御両親には銀メダルを。みんなの愛に応えて立派になった美人の華にはネ、オリーブのかんむりと銅メダルが、届くよ。 きっと。神様からの贈り物だから、透明で見えないけれど … 」。





鎌田久子氏
どんな教えか
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