ドナルド・フーバー大佐のマスコミ代表への声明

                      ー昭和二〇年(1945)九月十五日ー

 

これは軍事占領下における言論弾圧が如何に厳しいものであったかがよく分かる総司令部の占領政策による「マスコミ」に対する弾圧の声明である。この状態が約七年間もつづいた。この間に「憲法改正」などが、いかにも日本人の手により行われたかの如き擬態がとられた。またこの間に行われた極東国際軍事裁判により、作られた「東京裁判史観」とよばれるものの害毒は現在では、多くの日本人の潜在意識にまで阿片の如く浸透し、いまや日本は主権喪失し亡国の道を歩む危機を呈している。ここに終戦時にGHQがマスコミ代表に対して与えた声明を提示し、実状を認識する資料とする。

 

「諸君をここに召致したのは、新聞とラジオが日本全国に配布しているニュースの検閲について、命令するためである。

 最高司令官は、この件に関する九月十日付指令を、日本政府と新聞放送関係者が実行に移した態度について満足していない。

 

 マッカーサー元帥は、今後言論の自由に対して絶対最小限の規制のみを加える旨告示している。また日本の将来に関する論議が行われるべきことをも明らかにしている。最高司令官の設けた制限は、その論議が真実に反するものであってはならず、また公共の安寧を妨げるものでもなく、更にまともな日本人の国家再建の努力に水をさすものであってはならない、というものである。新聞の自由は、最高司令官が最も尊重するものである。またそれは、連合国がそのために戦ったもろもろの自由のうちの一つである。

 

 しかるに諸君は、指令の定めた寛容さに反するような態度を示した。諸君は協力して責任を果たそうとはしなかった。降伏以来諸君はニュースの取扱いいて誠意がないことを暴露した。したがって最高司令官は一層厳重な検閲を指令したのである。同盟通信社は昨日(十四日)十七時二十九分、公共の安寧を害するがごときニュースを頒布した廉で業務停止を命じられた。右の指令に違反するものは、いかなる機関といえども同様に業務停止を命じられるのである。

 

 マッカーサー元帥は、連合国がいかなる意味においても、日本を対等とみなしていないことを明瞭に理解するように欲している。日本はいまだに文明国のあいだに位置を占める権利を認められていない敗者である。諸君が国民に提供して来た色つきのニュースの調子は、あたかも最高司令官が日本政府と交渉しているような印象をあたえている。交渉というものは存在しない。国民は連合国との関係において日本政府の地位について、誤った観念を抱くことを許されるべきではない。

 

 最高司令官は日本政府に命令する…交渉するのではない。交渉は対等のもの同士のあいだで行われるのである。日本人は、すでに世界の尊敬を獲得し、最高司令官の命令に関して“交渉する”ことのできる地位を得たと信ずるようなことがあってはならない。ニュースのかかる偏向は即刻停止されなければならない。諸君は国民に真実を伝えず、そのことによって公安を害している。諸君は日本の真の地位を不正確に描写している。                                                                

 諸君が公表した多くの報道は、真実に反していると知るべきである。今後日本国民に配布される記事は、一層厳重な検閲を受けることになる。新聞とラジオは引続き100パーセント検閲される。虚偽の報道や人心を誤らせる報道は許されない。連合国に対する破壊的批判も然りである。日本政府は直ちにこの方針を実施に移す手続きをとらねばならない。もし日本政府がやらなければ、最高司令部が自らこれを行う。

 

 同盟通信社は本十五日正午を期して、日本の国家通信社たるの地位を回復する。同社の通信は日本国内に限られ、同社内に常駐する米陸軍代表者によって100パーセントの検閲を受け、電話、ラジオおよび電報によって国内に頒布される。海外放送は依然禁止される。また海外に在る同盟支局からのニュースは、この禁止が緩和されるまで使用してはならない。」 

 

                               (江藤淳著「閉ざされた言語空間」より)

 

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